米
炊き立てのご飯に勝るものはない

米は日本人の主食だ。日本の食卓は海外から様々な料理を取り入れ、世界でも類を見ないほど多様化しているが、今でも米とおかずと味噌汁が食事の基本だ。炊き立てのご飯の香りや、やわらかな甘味、噛んだ米粒が喉を通る時の感覚は、われられ日本人を幸せな気持ちにする。
おかずを一口食べ、続いて炊き立てのご飯をほおばる。そして、だしの効いた味噌汁を飲む。なんとも言えない至福のひと時だ。「日本人に生まれて良かった!」と思う人も多いはすだ。
「味噌汁」についてはこちらを参照。 “和食の2つ基本—ご飯と味噌汁” / “味噌汁”
「だし」についてはこちらを参照。 “知っておきたい8つの日本食” / “だし”
日本人にとって「米」は単なる食べ物ではない

日本人にとって米は食べ物を超えた特別なものだ。なんと飛鳥時代(7世紀)には、お米を基本通貨とし、「税」として納めていた。お米は栄養価が高い上に、保存や流通に向き、様々なサービスや物品と交換できたためだ。
やがて、米をたくさん持つことが、権力と富の象徴となっていった。こうして米を税金として納める社会は、何と江戸時代(19世紀)まで続いたのだ。世界でも類例を見ない社会文化だと言えるのではないだろうか。


米は稲を育てて収穫する。米を収穫した後の稲の茎を乾燥させたのが藁だ。昔は藁で草履や衣類や籠などの様々な生活用具を作った。お正月のしめ飾りなどは現代でも藁で作る。また神社のしめ縄なども藁で作られている。稲を育て米を収穫することは、日本人の生活に密接に関連していたのだ。(写真上はしめ飾り、下はしめ縄)


稲を育てるには水田が必要だ。日本中に広範囲に存在した水田は膨大な貯水力を持っていた。日本は山がちで斜面が多く、また秋には台風も度々やってくる。雨が降ると洪水などの水害が発生しやすい自然環境だが、水田が一定の雨水を蓄えることで、水害を防止していたという事実も見逃せない。
米料理の7つの顔
米は和食のあらゆる料理のベースとなっている。ここでは、米の使われ方を切り口に、7つのジャンルに分類してみよう。
ご飯の友



炊き立てのご飯に少量のおかずをのせて、かきこむ。シンプルだが、言葉に尽くせぬ美味しさだ。このおかずが「ご飯の友」だ。一種類のご飯の友でご飯を何杯も食べられる。
冷蔵庫から出したご飯の友を、炊き立てのご飯にのせるだけの超簡単な食事は、忙しい朝にはぴったりだ。しかも、しっかりと満腹になるから一日を元気にスタートすることができる。生卵、じゃこ、明太子等が代表的なご飯の友だ。(写真上から、それぞれ、生卵、じゃこ、明太子をのせたご飯)



納豆、おしんこ、ゆかり等も人気のご飯の友だ。(写真上から、それぞれ、納豆、おしんこ、ゆかりをのせたご飯)
生卵をかけた「卵かけごはん」は、香港をはじめとした海外でも、ちょっとした話題を呼んでいる。
「卵かけごはん」についてはこちらを参照。 “知っておきたい8つの日本食” / “卵かけご飯(TKG)”
丼もの


「丼もの」は丼と呼ばれる器に、ご飯とたっぷりのおかずがコンパクトにまとまった料理だ。短時間で食べられる割には、具材もたくさんのっていて豪華だし、ボリュームもあるので満腹感も得られる。
ビジネス街や繁華街などで、本日のランチなどとして、丼ものを提供する店も多い。牛丼、海鮮丼、カツ丼などが代表的な丼ものだ。日本全国には、数えきれないほどたくさんのご当地の丼ものがある。(写真上は海鮮丼、下はカツ丼)
寿司

「寿司」は言わずと知れた和食の代表選手だ。トロや海老の寿司の他、魚介類を煮たり、炙ったりして握る寿司もある。様々な種類を少しずつ楽しめるのが寿司の醍醐味だ。
寿司の米は、シャリと言われる。炊いた米を酢で締め、米粒と米粒の間に適度なすき間ができるようにふんわりと握る。手にもっても崩れないが、舌の上でほろりと崩れるように、シャリを握るのが寿司職人の腕のみせどころだ。寿司には粘り気の少ない米が向く。
「寿司」についてはこちらを参照。 “知っておきたい8つの日本食” / “寿司”
雑炊・粥

「雑炊」は炊いた米に出し汁や具材を加えて煮て作る。米の粒々は残ったままだ。卵雑炊などシンプルなものが多い。

また、鍋物を食べ終わった後のスープに米を入れて作る場合も多い。スープには鍋に入っていた具材の旨味が溶け出していて、これをたっぷりと吸った米粒は深い味わいだ。

一方、「粥」は生の米を多めの水で、米が少し溶けるくらいまで柔らかく煮込む。代表的なのは正月に食べる「七草粥」だ。粥は消化がよいので、お腹の調子が悪い時や食欲のないときに食べることもある。
炊き込みご飯・赤飯


米を醤油などの調味料や出し汁、季節の具材などと一緒に炊き上げたものが「炊き込みご飯」だ。キノコや山菜と一緒に炊き上げたものや、栗と一緒に炊き上げたものが定番だ。

米を小豆と一緒に炊き上げた「赤飯」もある。小豆から出る色素の為、うっすらとピンク色をしたご飯が炊ける。赤色は邪気を払うと信じられていたことから、魔よけの意味をこめて、お祝い事をするときに食べることが多い。
おにぎり



「おにぎり」はご飯を片手で食べられるように三角形や俵型に握ったものだ。中に焼いた鮭や、梅干し、鰹節などを入れて握り、海苔を巻いたものが一般的だが、海苔の代わりに表面にゴマをまぶしたり、味噌を塗ったりしたものもある。漬物などをご飯に混ぜ込んで握るものもある。
「おにぎり」についてはこちらを参照。 “知っておきたい美しく箱におさめた2つの日本食” / “もっと深い弁当の話”/”日本人のソウルフード—おにぎり”
餅



「餅」は、「もち米」という米を蒸して粘り気が出るまで臼でついて、成形したものだ。(通常、ご飯として食べる米は、これとは区別して「うるち米」という。)独特の粘りがあり、焼くと膨らむ。古くから、正月や季節の行事、祝い事の時などに多く食べられている。焼いて海苔を巻いて「磯辺焼き」として食べたり、「雑煮」や「お汁粉(ぜんざい)」にいれたりする。(写真上から、磯辺焼き、雑煮、お汁粉(ぜんざい))
米を美味しく炊くための努力

昔は米は「羽釜」と呼ばれる金属製の鍋で炊いていた。「かまど」と呼ばれる炊飯専用の調理設備に金属製の羽釜を設置し、重たい木製の蓋をして薪をくべて炊いた。
「始めちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子泣くとも蓋取るな」とは米を炊くときの火加減を表す言葉だ。米を美味しく炊くには、はじめは弱火、それから強火にし、途中では決して蓋を取ってはならないという火加減をわかりやすく伝えた言葉だ。
かまどで米を炊くのは大変な重労働である上、現代の家屋にこのような施設を作ることは困難であることから、今では一般には行われていない。

かまどで炊くと、米粒の一粒一粒が立ってツヤツヤと光り、粘り気と甘みのある美味しいご飯に仕上がる。今では、かまどで炊いたのと同じご飯が炊けるという触れ込みの電気炊飯器が人気だ。
もっと深い米の話
コンビニのおにぎり

おにぎりは、携帯に便利であることから、元来はお弁当用に家庭で作られていたが、現代では弁当に限らず、外出先で小腹が減った時や、何かもう一品食べたい時などに、店で買って気軽に食べるようになった。
その立役者がコンビニだ。おにぎりは、コンビニのトップクラスの売上をしめるカテゴリーで、なんと日本全体で年間60億個がコンビニで販売されていると言われる。赤ん坊も含めた日本人1人当たり、1年間に48個を食べている計算だ。

開発競争も激しく、開封しやすいパッケージの開発、高級な具材の採用、手作りに近い米のほぐれ方の研究などが行われ、様々な改良を施した商品が日々投入されている。おにぎりは、コンビニの集客と売上を大きく左右する重要な商材となっているからである。
米粉と和菓子



米粉には2つの種類がある。通常主食とする「うるち米」を粉にしたものが「新粉」だ。一方、餅を作る「もち米」を粉にしたものが「白玉粉」だ。
米粉は多様な和菓子に使われている。たとえば「落雁」には新粉が、「もなか」の皮や「練り切り」には白玉粉がそれぞれ使われているという具合だ。
最近では、小麦アレルギーを避ける為、米粉は洋菓子などにも使われている。
「和菓子」についてはこちらを参照。 “知っておきたい8つの日本食” / “和菓子”
味噌汁
日本人にとっての味噌汁

味噌汁を食べると何となく「ホッ」とする。体が内側から温まる。味噌汁は、よく「おふくろの味」と言われる。その家庭、その家庭の味噌汁の味があるという意味だ。


味噌汁は、だし汁で具材を煮てから、最後に味噌を溶かし入れて作る。同じ材料で作る味噌汁でも、具材の加熱時間の長さ、使用する味噌やだしの種類や量の違いなど、各家庭でそれぞれの作り方があり、微妙にその味が違ってくるのだ。
昔は、味噌を自宅で作ることもあり、自家製の味噌を「手前味噌」といった。「手前味噌」で作った味噌汁は、よその家の味噌汁と比べ、一味も二味も違うと感じたことだろう。

炊き立てのご飯と味噌汁は、和食の骨格を構成するものだ。和食に「一汁三菜」という言葉があるが、これは、ご飯と味噌汁(一汁)とおかずが三つ(三菜)というのが和食の基本構成であることを表すものだ。
ご飯は主に炭水化物であり、塩気がなく淡白な味だ。良質なたんぱく源である大豆を材料とし、適度な塩気のある味噌汁を一緒に飲むことは理にかなっている。
「ご飯」についてはこちらを参照。 “和食の2つ基本—ご飯と味噌汁” / “米”
味噌と味噌汁の歴史



味噌汁を作るうえで一番重要な材料は「味噌」だ。古代中国には「醤(しょう)」や「豉(し)」と呼ばれる、肉や魚、雑穀、大豆などを、麹(*)、塩と一緒に漬け込んで作った発酵食品があり、これが味噌の起源だと言われている。現代の日本の味噌は、大豆や米、麦等に、塩と麹を加えて発酵させて作る。
*麹:米、麦、豆などを蒸したものに「麹菌」を付着させて培養したもの。
味噌は平安時代には、食べ物に塗って食べたり、そのまま食べたりしたと言われる。この当時は庶民の口には入らない貴重品だったようだ。
そして、味噌汁が食べられるようになったのが、鎌倉時代だ。粒味噌をすり鉢ですりつぶして水に溶かして飲んだと言われる。
味噌とだし

味噌には「赤味噌」と「白味噌」がある。赤味噌は、大豆の浸水時間を長くして蒸して作ったもので、関東や東北などで発達してきた。熟成期間が長くてコクがあり、味は塩辛くやや辛めのものが多い。
他方、白味噌は、着色しにくい米麹を選び、皮をむいた大豆を煮て作ったもので、関西などで発達してきた。熟成期間が短く、塩分濃度が低い。麹の糖分で甘みがあるものが多い。
(写真左は赤味噌、右は白味噌)

2種類以上の味噌を合わせたものを「合わせ味噌」という。麹の種類の違うもの、色の違うもの、産地が違うものなどを合わせて使う。互いの個性が混ざり合って新たな風味になる。赤味噌と白味噌の合わせ味噌が代表的だ。
味噌汁に入れるだしの代表は、鰹だしと昆布だしだ。鰹だしは関東で、昆布だしは関西で発達した。現代では関東、関西とも、どちらのだしも使う。また、合わせだしと言って、両方のだしを使うことも多い。
味噌汁には、煮干しのだしを使うこともある。カタクチイワシなどの小魚を煮沸し、乾燥させたものから取る。味噌の味に負けない、コクのあるしっかりとしただしがとれる。
「だし」についてはこちらを参照。“知っておきたい8つの日本食” / “だし”
味噌汁の種類
一般的な具材


味噌汁の具に厳格なルールはない。冷蔵庫にある野菜などを使って作ることが多い。ただ定番の具材は、何といっても豆腐とワカメだ。ネギや油揚げも定番で、豆腐やワカメと組合せて使うことも多い。その他には、ナスやほうれん草、椎茸などがよく使われる。

あさりやしじみの味噌汁も美味しい。貝から出る独特のコク深いだしが楽しめる。
ご当地味噌汁

「豚汁」は言わずと知れた、おかずになる具沢だくさんの味噌汁だ。豚肉や人参、ゴボウ、ジャガイモ、こんにゃくなどが入いる。栄養満点、大満足の味噌汁だ。

「鉄砲汁」は、花咲ガニの入った北海道の名物汁だ。カニの足に箸を突っ込んで食べる様子が、銃にタマをこめている様子と似ているから、名ずけられたと言われている。

「かす汁」は酒粕を加えて作った味噌汁で、兵庫など近畿のものが有名だ。鮭や鰤のアラや、人参、ゴボウ、コンニャクなどがよく使われる。

「つみれ汁」は日本各地の漁港のある地域で作られている。人参や大根の入った、イワシのつみれ汁がその代表だ。サンマのつみれ汁を作る地域もある。
もっと深い味噌汁の話
沖縄の味噌汁定食

沖縄の味噌汁定食(”みそじる定食”と読む)の味噌汁は大サイズで具がいっぱいだ。味噌汁定食は、ボリューム満点の味噌汁をおかずにしながら、ご飯を食べる沖縄のソウルフードだ。
味噌汁は通常150~200ccの入る木製のお椀で食べるが、味噌汁定食の味噌汁はラーメンを食べるような大きな陶器の丼で提供される。


店によって異なるが、具材には島豆腐(沖縄独特の製法で作られた固い豆腐)やランチョンミート(豚肉をスパイスとともに加熱加圧調理した、ソーセージのような加工肉)を使うことが多いようだ。
パリの味噌汁

パリでは20年ほど前から、寿司屋やとんかつ屋などの和食店の進出が盛んだ。多くの店で味噌汁が提供されていることから、パリ在住の日本人のみならず、パリっ子の間でも味噌汁はすっかり認知されている。
以前、パリに出張した時にフランス人の知人が、寿司屋で、寿司を食べる前に味噌汁を飲んでいたのを見て、妙に印象に残ったことを思い出す。彼にとっては、味噌汁はスープと同じ感覚で、食事の最初に飲むものという位置づけだったのかもしれない。
世界各地で、その国ごとの味噌汁の楽しみ方があってよいと思う。食べ物が国際化するというのは、そういうことだ。日本人にとっても、大変喜ばしいいことだ。
インスタント味噌汁


最近、熱湯を注ぐだけで簡単にできる、インスタンド味噌汁のクオリティが上がっている。インスタント味噌汁自体はかなり昔からあったが、フリーズドライの技術が進歩したことから、ナスやほうれん草なのどの具材が本物に近い食感で楽しめると人気だ。
ボトル入り味噌
家庭では、味噌は通常750gとか1Kgのパックに入った味噌を購入して、味噌汁に使う。但し、一人暮らしの家庭では使い切るのが大変なため。500g程度のボトル入りの味噌が売られている。
ボトルタイプは液体味噌のものが多く、出し汁で具材に火を通した後にそのまま加えられて、すぐに溶けてとても便利だ。ふつう味噌はうまく溶かさないと、汁の中でダマになってしまうが、液体味噌なら溶け残りの心配もない。

